「去年、定年になって、これから旅行に行くのが楽しみなのに歯が抜けてしまって、このままだと入れ歯になってしまう。これから美味しい物をたくさん食べたいし、人生を満喫したいから入れ歯にはしたくない」
「これまでは子供にお金がかかって、自分は後回しだったけど、子供も自立したし、これまで放ったらかしにしていた自分の口をそろそろ大切にしようと思っている」
「入れ歯だと、味もわからないし、バネをかけている歯がグラグラしてくるし、もっと良い方法ないのかな?」
「まだ35歳なのに、奥歯が2本もなくて、入れ歯しかないと言われたけど、この年で入れ歯にするのは嫌だ!」
このようにおっしゃる方は相当数、いらっしゃいます。
やはり、歯というのは失ってみて、初めてその大切さが分かるようで、このようにおっしゃる方が多いようです。
そもそも、歯を失ってしまったときにそれを補う方法は3つしかありません。
失ってしまった歯の両隣の健康な歯を削って、かぶせ物をして、橋をかけます。橋をかけるために、ブリッジと呼ばれている治療法です。ブリッジは固定式になりますので、取り外したり、装置を洗ったりする手間はかかりません。また、しっかりと両隣の歯に固定されているために、モノを食べる際にも、違和感なく、美味しく食べることができます。
しかし、ブリッジにも問題点がいくつかあります。まず、ブリッジの場合、両隣の健康な歯を削ってかぶせものをするので、健康な歯を削らなければならないというデメリットがあります。一度削った歯はもう元には戻せません。また、お手入れが悪いと削った境目から虫歯になって、その歯も又悪くなってしまうことになります。
次に、両隣の歯で支えますので、一番、奥の歯が抜けてしまうと支える歯がなくなってしまい、ブリッジをかけることができなくなってしまいます。
さらに、ブリッジも両隣の歯で支えますので、この支えている歯に負担がかかってきます。
例えば、1本無くなってしまった歯を両隣の歯で支えるとすると、これまでは3本でやっていたことを2本でやることになります。会社で言えば、「これまで3人でやっていた仕事を1人辞めたから、2人でやってくれ」ということになります。最初のうちは頑張れるのですが、2年・3年経ったら、辞めてしまいますよね?それと同じように、支えている歯には大きな負担がかかり、状態にもよりますが10年ぐらい経つと支えている歯が辞めたくなってしまうようです(オスロ大学の調査によると、ブリッジの平均残存期間は10.5年であった)。
これは一部保険が適用されるので、非常に安く、手軽に作ることができます。入れ歯の良い点は安く、手軽に、短期間に作ることができるということです。しかし、入れ歯には様々なデメリットがあります。
まず、入れ歯は人工の異物ですので、補う歯の本数が大きくなるほど、口の中に違和感が出てきます。口の中は繊細に出来ています。例えば、髪の毛1本でも、咬んで違和感があります。それが総入れ歯になると、女性の握り拳位あるものを口の中に入れるのですから、違和感がないわけないのです。特に、入れ歯を支えるための床のような部分のある入れ歯になると、食べ物の味や熱さを感じにくくなってしまいます。
また、部分入れ歯の場合、入れ歯を入れる両隣の歯にバネのようなものをかけます。これをかけることにより、入れ歯を固定します。しかし、支えにされた方の歯はたまったものではありません。咬む度に、上下左右に揺さぶられ、力を加えられ続けます。
刺さった釘でも、長い時間をかけて上下左右に揺さぶられると、抜けてしまうのと同じように、バネをかけられてしまった歯はダメになってしまうことがあります。バネをかけていた歯が抜けてしまうと、その分、部分入れ歯を大きくして、次の歯にバネをかけ、またバネをかけていた歯が抜けて、ということを繰り返し、総入れ歯に着実に近づいてしまうことになるのです。
入れ歯の場合、ブリッジのように固定式ではなく、取り外し式なので、キレイにするために毎日、手入れをしなくてはなりません。これが手間であるだけでなく、「入れ歯を気にして笑えないと感じる方もいます」ということになります。
また、総入れ歯に近づくにつれて、食べ物がはさまる、痛いなどの理由により、咬むという重要な行為をすることが難しくなる場合があります。総入れ歯になると、たとえ咬むことができたとしても、自分の歯よりも咬む力が弱くなります。そうすると、固いものなどを食べることが難しくなってきます。
「おせんべいをバリバリ食べたい」
「大好物のステーキが噛み切れないから食べれない!」
という、歯があるときには当たり前だったことが入れ歯になってしまうと、できなくなり、美味しい物を自分の歯で好きなだけ、美味しく食べることがいかに素晴らしいことかを理解することになるのです。
現在、日本では8020運動といって、80歳のときに20本、歯を残そうという運動を厚生労働省が中心となって行っておりますが、現実は80歳になった時に平均、6.8本しか残っていません。
それは、歯が抜けてしまった後に入れ歯を入れて、バネを支えている歯が抜けていくことを繰り返していたからです。
このように入れ歯というのは確かに、安くて、手軽に、気軽に、短期間で作成することが可能です。しかし、安く出来るということの代償として、心身に負担やストレスをかけているのです。
ある調査によると、総入れ歯の人と自分の歯が10本以上残っている人を比較した場合、総入れ歯の人の方が明らかにアルツハイマーになりやすいというラットによる実験データも出ています。歯をかみ合わせたときに脳へ伝わる刺激というのはそれほど、重要なんです。
この刺激が行かなくなることで、記憶をつかさどる海馬という脳の機能と運動能力が低下していってしまうのです。つまり、きちんと咬めるということは年をとってからの生活、例えば、モノを覚える、人と話す、歩く、出かけるなどの生活に重要な機能にも重大なる影響を及ぼすのです。
インプラントのメリットはブリッジと入れ歯の欠点がないことです。インプラントというのは、人工のチタンでできたネジのようなものを歯の根っこの代わりとして顎の骨の中に埋め込み、その上にかぶせ物を装着するというものです。
天然の歯が顎の骨の中に植わって、顎の骨で支えられているのと同じように、インプラントも顎の骨によって支えられるために、バネをかけたり、橋をかけたりする必要がありません。したがって、入れ歯やブリッジのように支えとなる歯に負担をかけることがありませんので、他の歯が抜けやすくなってしまうなどの問題が発生しません。
さらに、インプラントは顎の骨の中に植わってますので、咬んだときの感触、咬み応えが自分の歯に限りなく近い感覚になるのです。そして、脳への刺激も強くなりますので、これまで入れ歯だった方がインプラントをいれると多くの方が若々しく、活力に満ちた人生に切り替わることが多いようです。
最近は、インプラントの認知度も上がってきているようです。しかし、インプラントについては間違ったイメージもあるようです。上の歯は下の歯がなくても、咬む機能を維持しようとして、咬む相手を探して伸びてきてしまうのです。そうなると、後で下の歯を入れるときには咬み合わせがズレているので、上の歯を削らないといけなくなってしまいます。
歯が斜めに倒れこんでしまうと、これを治すには矯正治療が必要になってしまいます
かみ合わせは全身の体のバランス、全身の健康にも大きな影響を与えています。その際に、1本1本の歯が重要な役割を果たしているのです。食べられれば、しゃべることができれば何でも良いというのとは違うのです
このように、歯は見えないし、動かないから1本1本の役割が軽視されがちですが、非常に重要な役割を担っているのです。
もし、皆さんの中指が根元からなくなってしまったらどうしますか?
困りませんか?
「この中指が元に戻るなら、どんなことだってするのに!」と思いませんか?
失った歯をインプラントで元に戻すということは、根元から無くなった中指をチタンの骨を入れて回復させるということと変わらないのです。
また、新車を1台買っても、軽く100万円はします。確かに、車は生活するうえで欠かせませんし、車があることで家族・恋人と旅行したり、楽しい思い出を作ることが出来ます。新車を買うこと自体もとってもわくわくする楽しい体験ですよね。そういう意味では、新車を買うということは人生を豊かにするために必要なお金だと思います。
私も通勤時に車を使います。とても便利で、快適です。ほぼ毎日乗っているので当たり前になっています。しかし、当たり前が急になくなってしまったとき。。。うちの五人家族での旅行はとてつもなく重労働になりました。買い物も少しの荷物ももてません。診療に必要な器具も電車では運べません。歯も車と同じように、あることが当たり前に感じてしまい、少しの欠落では不便を感じませんが、多く失ってしまったときに初めて不便に気づきます。
友達と家族と美味しい食事を食べに行ったときにメインのフィレステーキのにおいを楽しんで、肉を咬みきって味わうことが出来る、友達と旅行に行ったときにも何にも気にせずに旅行を楽しむことが出来るし、旅先で撮る写真も口元に入れ歯のバネなんかありませんから自信を持って笑うことが出来る。このようなことは人生を豊かに生きていくための基本的な部分なのではないでしょうか。
このような基本的な健康がしっかりしていなければ、何をしようとも、楽しさ・豊かさを感じることというのは難しいのではないでしょうか。
このような価値観で考えてみると、例えば、既に失ってしまった3本の歯を回復させるのには高い金額になるでしょうか?
これからはご自分の生活、人生の豊かさを満喫するために、今まで頑張って後回しにしてきた健康に少しぐらいのお金を使うことはこれからのご自分の人生を楽しむための道具を買い揃えるのと同じなのではないでしょうか?